本当は怖い自転車事故~講演記録~

※この資料は平成24年2月12日に倉敷商工会議所で行った岡山弁護士会冬季県民法律講座の資料を簡素化し、加筆修正したものです。
※この資料の無断転載・無断使用は固くお断りいたします。

自転車事故について山陽新聞レディアに掲載した記事はこちら

「本当は怖い自転車事故」

 

 ~なぜ怖いのか,どうすればよいのか~ 

第1 はじめに

1 自転車って何?
道路交通法2条1項11号の2に規定されている。

2 自転車事故とは?
(1)自転車が関係する全ての交通事故とするのが一般的だが、
今回問題にするのは自転車同士又は自転車と歩行者との事故。
(2)交通事故における古いようで新しい問題点。
平成23年7月21日の「山陽新聞レディア」掲載のコラムもぜひ参考に。

3 自転車事故の件数(警察庁発表)
平成12年 対自転車2346件(死亡0)対人1827件(死亡2)
平成22年 対自転車3796件(死亡1)対人2760件(死亡5)
(平成20年がピーク)
         ↓
① これ以外に警察に通報されていない事故も多いと思われる。
② 全体的に増加傾向にある。
③ 原因は?

第2 自転車事故はなぜ怖いのか?

1 自転車事故の特徴
① 誰もが被害者,加害者になる可能性(一般性)            

② 重大な結果が発生するおそれ(重大性)

a 【大阪地方裁判所平成7年3月24日判決】
被害者(67歳女性)が自転車に乗って青信号で横断中,加害自転車が赤信号を無視して進行したため被害者に接触。被害者は転倒して左大腿骨頸部(左足の付け根の関節の骨)を骨折
→損害額1447万9419円

b 【東京地方裁判所平成8年7月29日判決】
歩行者(61歳兼業主婦)が混雑した歩道を歩いていたところに,加害者(17歳)が自転車ですれ違い,その際に自転車のハンドルが歩行者のバッグの肩紐にひっかかり,歩行者が転倒して右大腿骨頸部(右足の付け根の関節の骨)を骨折
→損害額1449万5449円

c 【東京地方裁判所平成15年9月30日判決】
(自動車保険ジャーナル1534号23ページ)
歩行者(38歳検査技師)が信号のない交差点を横断中,加害者がスピードを落とさずに自転車で下り坂を走って交差点に進入し歩行者に接触,歩行者が転倒して死亡
→損害額6778万6613円

d 【東京地方裁判所平成19年4月11日判決】
(自動車保険ジャーナル1710号21ページ)
歩行者(55歳主婦)が青信号で横断中,加害自転車が赤信号を無視して時速30~40㎞で交差点に進入して歩行者に衝突,歩行者が転倒し10日後に死亡
→損害額5437万9673円

e 【神戸地方裁判所平成25年7月4日判決】
(新聞報道より)
小学5年生が自転車で時速20~30㎞で坂を下っていたところ,歩行者(67歳女性)に衝突し,歩行者は意識不明の重体になった。
→損害額約9500万円
(親権者である母親に支払義務が認められた)    

③ 自動車と違って保険に加入している人が少ない
             ↓ ということは
十分な損害賠償ができない、してもらえないおそれ              

④ 重大事故では刑事責任(刑罰)も
業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)
→5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金

2 自転車事故に対する国の見方
(1)今までは
  自転車=弱者
      ↓しかし
     自転車事故の多発→自転車のマナーが問題に。
      ↓
  あくまで、自転車=軽「車両」(道路交通法2条1項11号)
      ↓
(2)現在では
  自転車=必ずしも弱者とは限らない
       ↓そこで
  自転車の規制強化
   ①法律の整備(道路交通法の改正)
   ②指導取締り強化
   ③刑事事件における厳罰化

第3 自転車事故への対策

1 どんな対策を取るか
(1)自転車事故が起こらないようにする。
→安全運転を心がける。

(2)自転車事故が起こった場合に備える。
→保険への加入

保険には
相手に与えた損害を賠償する保険(賠償責任保険)と
自分が受けた損害を補償してもらう保険(傷害保険)と
両方がセットになった保険(総合保険)がある。

ア 加害者になった場合に備える
①自転車総合保険(ⅲ)
自動車総合保険の自転車版

②TSマーク付帯保険(ⅲ)
自転車安全整備士が点検・整備した自転車に適用(TSマーク)。
ただし補償限度額が不十分。

③個人賠償責任保険(ⅰ)
a新たに個人賠償責任保険に加入する。
手続が面倒。単独の個人賠償責任保険は少ない。
         ↓ そこで
b現在加入している自動車保険・火災保険などに個人賠償特約を付ける。
保険料も安く,手続も比較的簡単なのでおすすめ。
  ※ただし,自動車保険と異なり,保険会社の示談代行サービスはないのが原則なので注意。
→示談は自分が直接加害者と行うことに。
         ↓ もっとも
自動車保険に個人賠償特約を付けた場合には保険会社の示談代行サービスが付く場合もある。

イ 被害者になった場合に備える
①自転車総合保険(ⅲ)
②傷害保険(ⅱ)
→自動車保険(人身傷害補償保険)に自動車事故の傷害に限らない特約をつけることも可能。

(3)自転車事故が起こってしまった場合は
ア 相手方の氏名,連絡先の確認
相手が分からないと損害賠償の請求ができない

イ 警察への通報
→必要なときに事故証明がもらえるようにする。

ウ 怪我をした場合は病院で診察を受ける
必要なとき診断書がもらえるようにする。
(いずれも自動車事故の場合と同じ)
以上

参考文献 自転車事故過失相殺の分析(財団法人日弁連交通事故相談センター編著)

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